ASA経堂
新聞に載らない内緒話

1冊の本、コラムから


 高校の校歌を覚えていますかと、問われて即座に口ずさめる人はどのくらいいるだろうか。簡単な伴奏、歌い出しを教えられれば思い出すかもしれない。学生時代、ことあるごとに歌わされてきたのだから。

  東京都大田区にある都立六郷工科高等学校の校歌は内館牧子さんが作詞した。「ひらり」、「私の青空」(NHK朝の連続テレビ小説)など脚本多数、著書では「終わった人」「すぐ死ぬんだから」でおなじみであろうか。

 その彼女が門外漢? ながら作詞を引き受けたのは大田区育ち(都立田園調布高校卒)であり、もし六郷工科野球部が甲子園出場を果たし勝利しようものならば、自らの手になる校歌があの甲子園に流れるという野望? 実現のためだと言う。

 「水よ われら一滴の水よ 六郷から湧きいでて 銀河となって宇宙に注ぐ」

 なかなかスケールの大きい歌詞、歌い出しで学生たちも喜んだことだろう。

 実はこの「六郷工科」は私の母校・都立羽田高校、正確には都立羽田工業高校がルーツとなる。その昔、東京都は生徒の急増に伴い普通科高校を次々と新設した。私の羽田高校のそのひとつで、もともとあった羽田工業高校の敷地を半分わけてもらい普通科を設けた。

 2001年(平13=定時制は16年まで)まで両校は存続したがその後統廃合など、現在の「つばさ総合高校」となった。さらに工業教育関連を独立させ新設したのが前述の六郷工科というわけだ(いずれの高校も校門付近に学校設立までの経緯を掲示していたが、いまは跡形もない。どうでも良いのだが)。

 「夜明けとともに 世界の空へ はばたく仲間 さあ行こう 夢のせ運ぶ 銀翼のように」。寺内タケシは「世界の空」、内館牧子は「宇宙」へ若者たちを誘ってゆく。

 実はこんな話を書き始めたのは、図書館の書棚から何気なく借りた本、「あやまりたいの、あなたに」(内館牧子著・幻冬舎刊、初版2006年)がきっかけであった。「校歌の作詞依頼」というコラムがあり、何となく読み出したら「六郷工科」が飛び出し、さらに「つばさ」、寺内タケシと繋がった。一冊の本に、縁(えにし)を感じた次第です。

 あけましておめでとうございます。良いお年をお迎えでしょうか。さて20年ほど続いたこのコラム、今年3月で終了することにいたしました。自らの衰え、潮時を考えました。長い間、有り難うございます。年の初めに、ご報告まで。

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