ASA経堂
新聞に載らない内緒話

ゆずり葉の唄


 年末になると東京は深川、山口政五郎さんを訪ねた。江戸町火消の伝統を引き継ぐその人で、二番組内千組の組頭である。全身に彫り物(文身)をまとった、生粋の袢纏姿はそれこそ逸品で惚れ込んだ。

 年に一度のご挨拶で、山口さんの手になる正月用の玉飾り(しめ縄飾り)を求めた。稲藁や茅でつくったしめ縄土台に、松・裏白・ゆずり葉・昆布・橙などをつけて飾り付けた縦長のそれをご存じであろう。橙は「代々」昆布は「子孫繁栄」裏白(うらじろ)はシダの仲間で葉の裏側が白いことから「清浄」「長命」。そしてゆずり葉(譲り葉)にはこんな詩がある。旧仮名遣いだが、一部抜粋したい。

 子供たちよ。

 これは譲り葉の木です。

 この譲り葉は

 新しい葉が出来ると

 入り代つてふるい葉が落ちてしまふのです。

 

 世のお父さん、お母さんたちは

 何一つ持つてゆかない。

 みんなお前たちに譲つてゆくために

 いのちあるもの、よいもの、美しいものを

 一生懸命に造つてゐます。

 

 今、お前たちは気が附かないけれど

 ひとりでにいのちは延びる。

 鳥のやうにうたひ、花のやうに笑つてゐる間に

 気が附いてきます。

 

 そしたら子供たちよ

 もう一度譲り葉の木の下に立つて

 譲り葉を見る時が来るでせう。           (河井酔茗「ゆずり葉」)

 

 年が明けた。重苦しい春である。子らの、明るい声が聞きたい。この子らに何を残せるのか。愚かな大人たちよ。     

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