不思議な「月曜日」
7月1日からJR「青春18きっぷ」が売り出される。
私は決して鉄道マニアではないが、車窓に流れる風景をぼんやり眺めるのは好きだ。何時間でも飽きない。人生後半、この切符にはずいぶんお世話になった。多額の、旅費の心配なく思う存分電車が楽しめる。関東全域のJRは全て乗り尽くした。
とりわけお気に入りは御殿場線で、東海道線・国府津駅から山間に入り、御殿場駅を経て沼津駅に到る。富士山の絶景に見とれる。沼津は魚が美味しいのはもちろんだが、楽しみはご当地餃子なのだ。あまり知られていないがここに名店が3軒ある。うち2軒はマスコミに喧伝され敬遠するが、最愛の1軒はうらぶれた町中華である。
この店を目指して勇躍電車に乗り込むのだが、さて店頭に立つと「本日休業」とある。臨時休業に当たることもあるが、この店は月曜日が定休なのだ。出かける前に調べろはもっともだが、いざ餃子を食べたくなると見境が無くなるらしい。観光客で混む土日を避け「今日こそ」と乗り込むと月曜日ということになる。泣く泣く残り2軒の、マスコミ擦れした店で餃子を食べる羽目になる。
それにしても、月曜日定休が多いのはなぜだろう。飲食店・サービス業の場合、通常は土曜・日曜に客足が集中し、この両日を過ぎると客足は収まる。生鮮市場も毎週日曜日が休みで都内の多くの店舗で鮮度の良い生鮮品を提供できるのは、火曜・木曜・金曜という。
理容室・美容室も一般に月曜が定休日だが、これはかつての「休電日制度」の名残らしい。戦時中や戦後の電力不足からその供給を止める「休電日」が設けられ、戦後この休電日は、多くの地域で月曜となった。電気を使うことが多い理容室・美容室も月曜を休みにせざるを得ず、現在でも月曜が主な定休日とされているとか。ほかに遊園地、動物園、美術館など月曜定休である。もっとも不動産業界は水曜、診療所、花屋業界、クリーニング業界は木曜といわれてきたが昨今はどうであろう。
作家の阿佐田哲也は「三博四食五眠」(幻戯書房刊)でこんなことを書いている。
「これまでの悲運の記録は、ひと晩歩いて七軒が休みだったことである。(中略)まず本郷のてんぷら屋が、のれんをしまうところだった。それで根岸へゆき、休み。浅草の穴場も休み。日曜祭日でもないし、特殊な日でもない。それなのに定休日でもなく、臨時休業の札を出しているところもある」
「とってかえして、京橋が閉店。銀座も休み。もうそこらの知らない店には意地でも入れない。六本木の年中無休という中華料理店が何故か休み。西麻布の店も休み。もう夜が更けてからホテルの軽食堂でハンバーグを寂しく喰べた。あの年は総じて悲運で、カミさんと危うく離婚するところだった」
悲運が「月曜日」であったか明確ではないが、その可能性は高い。 【石井秀一】
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