思いがけぬ訃報
寒中お見舞いを書いている。年賀状を差し上げられなかった方へのご挨拶である。
昨年暮れ、数枚の喪中の知らせをいただいた。たいがいは両親の死去を伝えるもので、私ぐらいの年齢になると親は90歳を超え、それぞれ事情を抱えているだろうがまずは長寿を全うしたと言えそうだ。私は両親、早くに姉を失っている。
そんな中、見覚えのない差出人を見つけた。高校時代の野球部、チームメイトNの夫人からであった。(昨年)8月26日、Nが亡くなったとある。ありきたりの喪中挨拶で、詳細がわからない。68歳での死去であるから病気であろうか(前年までの年賀状にはそんな素振りも見えなかったが)、それとも不慮の事故にでもあったか。少々気が引けたが、電話をかけてみるとコロナウィルス感染による病死であると知らされた。
「本人がワクチン接種を嫌がりまして。副反応のある、ワクチンは信用できないと。オレは罹らないと申しまして。私は2回接種したのですが」との説明であった。学生時代から一本気な男で、頑固なところもあったがそれにしてもと、電話口で言葉を失った。
千葉県在住であったから、8月26日の県内感染状況を調べてみると当日の感染者数が898人、死者は9人で「50代から90代以上の男性9人の死亡」が県当局から発表されている。この9人のうちの1人がNであったわけだ。
「入院してから面会は謝絶、リモートで僅かに会話が出来ただけでした。葬儀もままならなくて。遺体はビニールに包まれていました」と夫人は声を落とした。
「Nが、亡くなったよ」とチームメイトのY(愛知県瀬戸市で陶芸家になった)に伝え、関係者に知らせて欲しいと伝えた。しばらくして届いた返事は意外なものであった。
「実は(同じくチームメイトであった)Kが1年前に亡くなっていたんだよ。詳細は分からない。それからAは今、ガン闘病中だそうだ。放射線治療を施しているそうだが、奥さんの話ではどうも状態は芳しくない」との報告である。
それにしても、である。高校時代、エースで4番(今風に言えば二刀流だが)のFは20年ほど前に縊死している。彼の球を受けていたのが今回病死したNで、一昨年亡くなったKが一塁手、ガン闘病中のAは三塁手である。
「つまりだな、当時のダイヤモンド(内野)で、生身なのはオレとお前だけだ」とYは低くつぶやいた。Yは二塁手、私が遊撃手であった。そう言えば3番を打っていた外野手Tは大学進学後、行方がしれない(まぁ連絡が取れないというだけの話だが)。
「オレはお前(私)が真っ先に逝くとみたがな。いつも忙しそうだったし、不規則、暴飲暴食を自慢していたからさ」とはYは笑った。
先日、N夫人に電話した。「百箇日法要も終わりました。納骨も終わりました」。声のトーンは上がった。そう、明るく生きて下さい。彼の分も―。
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